2025年8月15日金曜日

箱の中のあの子

「 箱の中のあの子」


ありふれた言葉を並べている人たち

まるで映画みたいで箱の中で暮らしているよう

たとえ嘘でも

疑いもせず

涙を流すこともないのに

箱を被った子供たちが前からやってくるよ

お手製の銃をこしらえて

街中見回っている

ああ小さな穴から

のぞく鋭い目

なんだ夢か!

箱を被った人たちが街中に溢れていた

そんな夢で目が覚めたの

ああ、あの子も箱の中

ああ、あの子も箱の中

ああ、あの子も

雪の朝

 「雪の朝」


「ねえ、雪が舞っているよ」

と外に飛び出す

二月の朝小さな手で泥混じりの雪を

手にいっぱいいっぱいすくっていたね

空に向かって手招きする

そんな真剣な目で

「ねえ、ここは南風が吹く村だから

仕方ないよね

白い太陽はいつも舟に乗ってやってきて

君をさらってさらってしまうから」

遠くを見ては夢を見る

そんな寂しげな目で

振り向きもせず待つ背中は

おとなびていたよね

いつか見せてあげたい

声も出ないくらい眩しい

一面一色の白く輝く雪を

弔いの日〜貝殻を拾う少女のお話〜

「 弔いの日〜貝殻を拾う少女のお話〜」


君は何度も何度も

しゃがみ込んで貝を拾う少女

それは脆く砕けそうな

ぼくたちの最期のお願いだった

そしてずっと青い霧の中を

手探りで歩き続けていた

そこは何も見えない

だけど手に触れたものだけは信じられた

どこにも行けないまま

もう時間だね

とうとう君は疲れ果てて

途方に暮れて手を広げたの

ぼくは肩を下ろす君の温かい眼差しに

「ありがとう」と言った

「さよなら」

灯りひとつ

 「灯りひとつ」


遥か遠く西の彼方

月の産まれ落ちる場所

谷は深く空は近い

吹き下ろす風の入り口を探して

どこまで来たのか

長いこと歩いてきたんでしょう

貴方は深い森に覆われて

揺らめきながら消えて


そして

みるみるうち

みるみるうち

みるみるうちに

灯りがひとつ産まれ落ちた

水たまりの雲

「 水たまりの雲」


水たまりに夏の雲が浮かんでいるね

この雲に乗って帰ろうと

君は笑って素足のまま

帰らない

「あの子、まだ帰らない」

魚たちの銀河

「 魚たちの銀河」


ゆらめく水面の下を泳ぐ魚たちは

七色に光る尾ひれを振り

空に飛んでゆく

瞬く間にどこまでも行けるさ

遠くまでも

もう隠れていることないよ

そして光たちは川になってゆく

故郷の彼方へ

光散らしながら


泳いでゆく

泳いでゆく

泳いでゆく

うさぎの子等よ

 「うさぎの子等よ」


草の大地が長い眠りのように続いていて

うさぎの子等は無邪気にボールを飛ばしているの

どこまでも投げ合って追いかけ合う

そのうち足も速くなるはずだから

何度も投げ合って追いかけ合う

時々は空を見上げて堪え合うのね

そっちの景色はどうかい?

お母さん見ててねと

空を見上げては確かめるの

空には黄色いボール

黄色いボール

黄色いボール

重ねる

静かな果ての小さな鳥

「静かな果ての小さな鳥」

小さい頃描いた小鳥の絵は

口が小さくて青い翼広げて

僕の街の静けさに不思議ねって

歌を歌ってきた

さいごの日の夜君は眠れずに

古くなったうちの前で

変わっていく街を眺めていたら

すると灯りが見えてきたの

さめない夢を見ているのかな

君は僕が描いた小鳥さ

君はこの街を出る日の夜を見つめていた


何の意味も無い空のはずなのに

君はいろんなことを予想して

不確かなことでも怯えながらも

夢を見ていた

この街を出る日

今にも泣きそうな

黒くなっていく空を見て

変わっていくものを見つめていたら

すると雲が動き出したの

光が差すかもしれないな

海も越えられるかもしれないな

今まだ夢を見てるのかな

きみはぼくが描いたぼくみたい

きみは光の中で

まだ何も知らないでいる

何も知らないでいる


-静かな果ての静かな丘-


ここは星屑か街の灯りか見分けがつかないほど果てだから

ときどき道に迷ってしまう

道しるべを作るには

とびきり明るい

レモンの木を植えること

もしくはたくさんの夢をみること


夢は見れば見るほどに

街に灯りが一つ灯るんだって

そんな言い伝えを信じて


せっせと種を植えては

せっせと水を運び

汐風とともに眠る

それはそれはあたたかくて柔らかい時間だった


何日も、何年も

夢を見ては繰り返す

いつしか

灯りは都会の街ほどになっていた

気づけば私も

その中で一つの灯りになっていた

言葉を持たない

満月に集う灯りたち

儚いものは

埋もれてしまうことを知っているから

みんなで手を繋ぐ

小さくて弱くて

優しい世界がそこにはあった


ふと空を見上げて

街灯の向こうで

ひっそりと瞬く星々を見た

私は指でゆっくり空をなぞり星たちを繋いだ


ね、みんなおんなじ

わたしも、きみも


そう、いつかの記憶

きみは星屑のような目をして

そこから街を眺めていたよね

まばゆくも柔らかい

光の中で

まだ何も知らない

光の中で

夢の中で